暗くて愚かなニクいやつ。

俺はお前を殴らないからお前も俺を殴らないでおくれ

リハビリングガールズ‼︎〜もう一度、エタりを超えたその先に〜 #2「ホトトギス」

「うーん、ダメだ。思い出せない」

……孝太郎くん、どうしたの?」

「おお、鴬谷。三つ編みメガネがステキな優等生の鴬谷じゃないか」

「説明口調だね」

 1限目の休み時間。

 俺が自分の席で頬杖をつきながら考え事をしていると、同じクラスの女子生徒・鴬谷美空(うぐいすだに みそら)が話しかけてきた。

 わざとらしい説明口調で説明した通り、長い髪を後ろで一本の三つ編みに束ねている。

「あ、そうだ。優等生の鴬谷なら、今俺が抱えている問題を解決できるかもしれない。なんたって優等生だからな」

「そ、そんなに優等生って連呼しないでよう……

 俺のおべっかを受けて、優等生の鴬谷は目を伏せてしまった。俺も悪いのだが、しかし照れて恥ずかしがる鴬谷の様子はとても可愛らしいため、ついついちょっかいをかけてしまう。

 しかし、あまり困らせるのも本意ではないため、俺は本題を切り出す。

「実はさ、ちょっと思い出せないことがあって。聞いてもいいか?」

 本音を言えばわざわざ鴬谷の手を煩わせるような質問でもないのだが、スマホ等で調べるのはなんだか負けた気がするので(何の役にも立たないプライドだ)、昨日から自力で思い出そうとしていた。

 しかしどうしても答えを導き出すことができず、優等生の知恵を借りることにしたのだった。

「う、うん。私に分かることであれば」

「ありがとう」

 快く引き受けてくれた鴬谷に、俺は昨日から気になっていた疑問をぶつける。

「昨日、日本史の補習を受けていたんだ。その時に『日本史』というワードからぼんやり連想されたんだけど、中学時代、有名な武将の性格を表した俳句みたいなのやったじゃないか?」

「うん。あるね」

「それに出てくる、鳴かないと殺されたり、策を弄して鳴かされたり、かと思えば鳴くまで待ってもらったりする、有名な武将たちに何かしらされる鳥って何だったかな?ど忘れしちゃってさ…… 確か『デミグラス』みたいな名前だったと思うんだけど……

……ホトトギス?」

 その単語を聞いて、俺の頭の中に電球が光るイメージが湧いた。欠けたパズルのピースがパチッとハマるような感覚もした。思い出してしまえば、もう『ホトトギス』以外考えられなかった。

 それにしても、デミグラスってなんだよ。

 ハンバーグにかけると美味しいソースかよ。

「それだ。さすがは学年一の秀才」

 そんな賛辞と共に、俺は鴬谷に拍手を送った。またしても彼女は恥ずかしそうに目を伏せ、両手を自身の顔の前で振った。

「お、大げさだよ」

 確かにこの問題が解けたことに対してこの称賛の仕方は大げさかもしれないが、しかし彼女が学年一の秀才であるということは、なんら大げさではなかった。少なくとも俺が所属する1A組では、その成績はぶっちぎりのトップだ。補習常連組である俺・一色・雨地(成績順)の中間テスト全教科の平均点の合計より、鴬谷の全教科平均点の方が高いのではないかとまことしやかにささやかれている。

 ……鴬谷のすごさを語りたかっただけなのだが、それと引き換えに俺を含めた三バカのアホさ加減も、改めて痛感してしまった。(鴬谷の平均点が90点なら、俺たちの平均点は30点未満ということになる。30点が赤点のこの学校において)

 さすがにそれが事実ではないと願いたいが、まあそれぐらいには俺(と、一色や雨地)と鴬谷には学力の差があるのだ。

「はあ……

「ど、どうしたの?孝太郎くん。ため息なんて」

 ため息をつく俺を心配そうに見る鴬谷。単に自分のアホさ加減に憂鬱になっただけなのだが、優しい奴である。

「いいや。デミグラスハンバーグが恋しくなっただけだよ」

「そ、そうなんだね」

 困り顔を浮かべる鴬谷に、こんなことを聞いてみた。

「ちなみに鴬谷なら、ホトトギスはどんな風に扱う?」

 俺の問いを受けて、彼女は右手の指で口元を触り、考える素振りを見せる。

「えっと…… やっぱりまずは、飼育環境を整えるところから始めるかな。動物を飼った経験はないから、ネットや本で情報収集をして…… あ、でも確かホトトギスって、狩猟規制で保護鳥獣に指定されて飼育ができなかったはず……

「真面目だな、鴬谷は……

 俺の何気ない質問にも真摯に受け答えをしてくれる鴬谷。その辺り、見習いたいものである。

 野鳥を飼うことはできないそうだが、鴬谷ならどんな生き物でも適切に飼育しそうだ。

「さしずめ『鳴かぬなら まずは環境 整えよう』だな」

「そ、そうかもね……

 武将たちの俳句になぞらえて俺も一句詠んでみたが、しかし言ってから『そのまんまだな』と思ってしまった。俳句のことはよくわからないが、なんというか情緒がなかった。どちらかと言うとあいさつ標語みたいな温度感だ。俺に俳句のセンスはなさそうである。

「じゃあ、孝太郎くんならどうする?」

「俺なら、そうだな……

 鴬谷に問われて、俺は考える。優等生である鴬谷の真似をして、俺も右手の指で口元を触った。

「『鳴かぬなら 俺が代わりに 鳴くぴえん』」

「ぴ、ぴえん?」

「ホトトギスが鳴くのを嫌がっているのなら、俺が代わってやる。『ぴえん』と鳴いてやる。そんな思いをしたためました」

「や、優しいんだね……

 俺のテキトーな俳句にも、ちゃんとフォローを入れてくれる鴬谷。お前こそ優しさの塊だよと言いたくなるぜ。

「そういえば、俳句と川柳ってどう違うんだったかな?」

「季語が入っているかどうか、かな。桜や梅みたいな植物や、ツバメみたいに生き物が季語になる場合もあるね。でも季語が入っていない『無季俳句』っていうのもあるよ」

「無季俳句……

 その語感から着想を得て、俺は再び鴬谷の思考ポーズを真似する。

「やっぱりホトトギス側も出来る限りの努力をするのがベストだと思うし、応援の意を込めてもう一句詠んでみるか」

「う、うん」

「『鳴かぬなら 腹筋100回 ホトトギス』」

「無季俳句というより、ムキムキ俳句だね……

 きちんと俺が求めたツッコミをくれる辺り、さすがは優等生である。学力だけでなくそっちの能力もあるとは恐れ入るぜ。

 俺が勝手に恐れ入っているその時、授業が始まるチャイムが鳴った。それにつられてか、俺の腹も空腹により鳴いた。ホトトギスの鳴き声よりも、それらの方がよっぽど身近な問題だ。

「なんか、腹減ってきたなあ…… 次の休み時間にでも早弁するか」

「も、もう食べちゃうの?まだ2限だよ?」

「大丈夫。弁当はいつも2つ持ってきてるから」

 そうなんだ、と言いながら、少し困ったようにはにかむ鴬谷。そろそろ次の教科担当の先生が来る頃合いのため、鴬谷は俺に軽く「じゃあね」と言って自分の席に戻る。

 背を向けた鴬谷が一旦立ち止まり、振り向きざまに言った。

「デミグラスハンバーグ、お弁当に入ってるといいね」