暗くて愚かなニクいやつ。

俺はお前を殴らないからお前も俺を殴らないでおくれ

温めますか?【小説再掲】(1300文字程度)

『コンビニの女性店員に恋をしました。 アプローチをしたいのですが、どのような方法が良いでしょうか?

いきなり連絡先を渡されても、向こうは引いちゃいますか?』


 恥ずかしながら、この文章は俺がネットに書き込んだものである。

 今まで女性とは縁がなかった俺が、近所のコンビニの素敵な女性店員に恋をしたと気付き、どうにか足掻いた結果が、この書き込みである。


 笑いたければ、笑ってもいい。


『私もコンビニでバイトしているのですが、いきなり連絡先を渡されてもちょっとびっくりしちゃいますね。質問者さんがとびきりの男前だったら、わかんないかもですけど(笑)』


 文末に『笑』の一文字を添えられてしまうと、ムッとする感情が湧いてしまうことも否めない。確かに俺は、決してとびきりの男前ではないが……


 しかし次に続く文章を見て、俺は感嘆する。


『真面目にお答えするなら、お弁当を温めてもらってはどうでしょうか?』


 お弁当ーーという気になる単語が出てきたので、画面をさらに下にスクロールする。


『お弁当を温めてもらう45秒間ぐらいなら、世間話ぐらいは良いのではないでしょうか?それですぐにどうこうなるわけでもないですが、質問者さんの小さなきっかけにでもなれれば幸いです』


 ーーという返信をベストアンサーに選び。


 俺は今、弁当を持ってレジに並んでいる。


「お待ちのお客様、どうぞー」


 レジを打つ彼女に、俺は手に持った弁当を手渡す。「接客業だから」と言われてしまえばそこまでだが、彼女は俺に、はじける笑顔を見せて言った。


「温めますか?」


 はい。 


 俺の、君への想いと同じようにーー熱々にお願いします。


 ……という、妄想の中で練り上げたセリフを大幅にカットして、「お願いします」とだけ言った。声が上ずったことを悔いていると、弁当は俺の彼女への想いと同じように熱々に温まっていた。


「ありがとうございましたー」


 彼女の透き通るような声を背中に受けて、熱々の想いを思い切り空振らせ、暑々の太陽がきらめく外へと歩みを進める。


 次はーー次こそは。


 果たして俺はこの先、何度「次こそは」と決意するのだろうか。

 うだるような暑さに辟易しながら、そんなことを思うばかりである。


 ◯


「温めますか?」


 はい。 


 俺の、君への想いと同じようにーー熱々にお願いします。


 ……という、妄想の中で私が練り上げたセリフを目の前のお客様が言うことは当然無く、お客様は「お願いします」とだけ短く言いました。

 お客様の素敵な視線に熱くなってしまわないように、お弁当を温めているレンジの残り時間を見ていると、あっという間に時間は経ちました。


「ありがとうございましたー」


 という、接客業だからと言われてしまえばそこまでのセリフの前には「今日もその素敵なお姿を拝見させていただいて」という言葉が隠れているのですが、もちろんそんなことは伝わっていないでしょう。

 次はーー次こそは声をおかけしたいと思うばかりです。そんな熱い想いを落ち付けようと、私はお客様がいなくなった店内の、冷房がよく当たる場所に立って、私がいつの日かネットに書き込んであったのを見つけた、私がベストアンサーをもらった質問を思い出します。




『コンビニの女性店員に恋をしました』




「そんな都合のいいこと、ないですよねえ」


 あの書き込みが、あの素敵なお客様が私に対して抱く想いだったらいいのになあ。






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※この作品は以前『小説家になろう』上に投稿したものに、若干の修正を加えて再掲したものです。