暗くて愚かなニクいやつ。

俺はお前を殴らないからお前も俺を殴らないでおくれ

悪魔は、あくまでも。【小説再掲】(6000文字程度)

「クックック…… 私は悪魔だ。お前の魂と引き換えに、どんな願いも叶えてやろう」


『それじゃあ悪魔のお姉さん。僕の、スケベでいやらしい恋人になってくださいよ』


「え〜、それはヤダな」


『どんな願いも叶えるって言ったじゃないですか』


「え〜、だって恋人って長い間一緒にいるしさあ、すぐ魂貰いたいってのが悪魔の心情ってもんじゃん?」


『イヤですよ。僕は綺麗で清楚な悪魔のお姉さんと付き合いたいんだ』


「そんな褒められてもさ〜」


『そして個人的には、ちっちゃいのに背伸びして大人っぽく振舞う悪魔のお姉さんをヒィヒィ泣かせたい』


「恋人がどうこうじゃなくてお前がヤダな〜」





「クックック…… 私は悪魔だ。お前の魂と引き換えに、どんな願いも叶えてやろう」


『それじゃあ悪魔のお姉さん。気丈に振舞う悪魔のお姉さんを、ヒィヒィ泣かせてもいいですか?』


「え〜、前より限定的になってるじゃん」


『だってお姉さん、僕の好みなんだもんっ!』


「なんだもんっ!なんて可愛く言われてもさ〜」


『じゃあどんな願いならいいんですか!?』


「キレるなよ……」


『ちなみに僕に欲望なんてありません』


「個人的な願望ならありそうだけどな」


『それは、悪魔のお姉さんが僕の前に現れてしまったからです。お姉さん、結婚を前提に、僕と付き合ってください!』


「え〜、結婚すんの?」


『一夜限りのアバンチュールを、とも考えたましたけど、一夜限りってのはもったいないし物足りないから、50年限りのアバンチュールってのでもいいですよ』


「え〜、50回もお前と四季折々を楽しまないといけないの?」


『日本の四季は美しいですよ』


「それは知ってるけどさ〜」





「クックック…… 私は悪魔だ。お前の魂……」


『僕と、スケベでいやらしいことしましょうよ。そりゃあもうねっとりと』


「すげえ食い気味じゃんよ〜」


『でも悪魔が叶えてくれるのって、そういう方面が主じゃないんですか?』


「悪魔ってのも色々あるんだよ」


『そうなんですか?』


「いきなりってのはなんかな〜。心の準備ってもんがな〜」


『それはただお姉さんが純情なだけじゃないんですか?』


「は?お前何言ってんの?悪魔が純情なわけねーだろーがよ」


『じゃあ、僕とスケベでいやらしいことしましょうよ』


「はっ!やってやろうじゃねえか」


『僕は逃げも隠れもしません』


「い、いくぞ……」


『いつでも準備万端です』


「……」


『……』


「……」


『……』


「やっぱヤダな〜」


『何がそんなにイヤなんですか?』


「心の準備ってもんがな〜」





「魂くれ」


『ずいぶんと雑ですね』


「だって、お前だし」


『もちろん願いを叶えてくれない限り渡しません』


「あ〜、まあそりゃそうだわな」


『僕の願いはお姉さんを好き勝手することなんですけど』


「お前自らのクレイジーさを全く隠そうとしねえな〜」


『だけどお姉さんは応じたくないと』


「少なくともお前相手にはな〜」


『だったら他の人間のもとへ行ったらいいんじゃないですか?』


「それはなんか負けた気がするし〜」


『願いを叶えずに魂だけ抜き取るとか』


「それはズルいじゃん、良心が痛むっていうかさ〜」


『悪魔にも良心はあるんですね?』


「あと両親も怒るし〜」


『悪魔も親には弱いんですね?』


「私もこんな歳だからさ〜、そろそろ親孝行とかしていきたいじゃん?親がいつまでもいると思ってちゃ駄目だろ」


『じゃあ結婚とか考えるんじゃないんですか?』


「まあな〜、孫の顔見せてやりたいし」


『ちなみにどんな人がタイプなんですか?』


「うーん、そうだな。身長は170そこそこで」


『はいはい』


「ハツラツとしていて、一緒にいて元気をもらえるような感じで」


『なるほど』


「あとはまあ、私みたいなワガママなのを受け入れてくれる広い心の人がいいかな〜」


『検索結果が出ました』


「なんの?」


『今の条件に当てはまる男性は、僕しかいませんね』


「ウワァ、このコンピューター無能かよ〜」


『お姉さんみたいなワガママなのを受け入れることができるのなんて、僕ぐらいですよ』


「そんなことはないと思うけどな〜」


『再検索しますか?』


「是非に」


『条件は?』


「お前以外」


『なるほど、それでは検索します』


「神様頼むぞ」


『出ました』


「おおっ、教えろ」


『まあ言わずもがなわかっていたことではありますけど、僕という唯一無二の絶対条件を除いたことでお姉さんの結婚相手はこの世にはいなくなりました』


「おいおい」


『お姉さん!これで一生独身ですね!』


「腹立つ顔すんなよ〜」


『僕がもらってあげてもいいですよ』


「お前と結婚するぐらいなら雑草を舐めてる方がよっぽどマシだよ」


『それはなんともマニアックですね』


「お前の顔よりよっぽどマシだよ」





「魂よりハンバーガー食いたいな」


『唐突に俗物的!』


「ハンバーガー美味いじゃんよ〜」


『まあ美味しいですけど』


「ぶっちゃけ魂いらね」


『悪魔のアイデンティティ!』


「少なくともお前の魂は食いたくないな〜」


『まああげませんけどね』


「魂を食わなきゃ飢え死にするとかじゃないし」


『そうなんですか?』


「基本的に人間と同じ食生活なんだよ。朝昼晩は普通に食べて、魂はどちらかというと嗜好品に近い」


『意外性ありますね……』


「朝昼晩ハンバーガー食べて暮らしたい」


『それは人間でもどうかと』


「ハンバーガーに堕ちる人生なら悪くない」


『僕のもとに堕ちるって選択肢はないんですか?』


「お前は一人で奈落の底にでも堕ちてろよ〜」





「キサマの魂をよこせぇぇぇ!!」


『急に悪魔生命をまっとうしたような発言ですね』


「……まあ欲しくないけどさ〜」


『小声で悪態をつかないでください』


「はぁ〜」


『なにかあったんですか?』


「いや、実はな…… 前に『魂いらね』発言しただろ?」


『あー、ハンバーガーの時ですね』


「それがなんか親の耳に届いちゃったらしくてさ〜」


『ものすごい地獄耳ですね』


「『悪魔としての自覚が〜』みたいにしこたま怒られちゃって」


『相変わらずご両親に弱いですね』


「いやもう、テンションだだ下がりなわけよ。たはは、超ウケる」


『無理して取り繕う若者言葉が空元気を絶妙に表現していますね』


「はぁ〜ぁ」


『……そうだ、ちょっとついてきてくださいよ』


「えぇ〜?」


『いいからいいから』


「引っぱんなよ〜」


『着きました!』


「ここって……」


『奢りますよ、ハンバーガー』


「お前……」


『悪魔のお姉さんは楽しそうに笑っている方が絶対に可愛いと以前から思っていまして』


「……嬉しいじゃねえかよ」


『なんか言いました?』


「なんも言ってねえよ」


『そうですか』


「それより、覚悟しとけよ。お前の財布が涙を流すほどたらふく食ってやるから」


『それは楽しみです』


「私の食欲は奈落の底以上に底なしだからな〜」


『お姉さんが笑ってくれるのなら、僕の財力だって底なしですよ』





「魂いらねーからなんか願い事叶えてやるよ」


『急にデレないでくださいよ』


「デレてねえよ」


『じゃあ、僕と淫らな……』


「それはイヤだよ」


『ワガママですね〜』


「あくまでも、ハンバーガーの件の礼だよ。願いを叶える、なんて言っといてこっちが『ハンバーガー食いたい』って願いを叶えられちまったんだから」


『そーゆーことですか』


「だからまあ、それと同じぐらいの規模で頼む」


『うーん、そうですね……』


「なんでもいいんだぜ」


『特にないですかね』


「捻り出せよ〜」


『僕に欲望はないって前に言ったじゃないですか』


「かと言ってお前の願望は叶えたくないからな〜」


『じゃあ、貯金しといてくださいよ。欲望貯金』


「貯金とな」


『貸しは作っておくに越したことないですからね』


「借りは今すぐにでも返したいんだがなあ〜」


『まあそれは冗談にとして。なにか思い付いたら言いますから』


「お前のは全然冗談に聞こえないんだよな〜」





『お姉さんの魂が欲しいです』


「おいおい、逆転してんじゃねえか」


『ええ、奇跡の大逆転劇です。3点差を追う9回裏ツーアウト満塁フルカウント、逆転サヨナラのグランドスラムです』


「そこまで劇的じゃねえよ」


『お姉さんの魂が欲しいんですよ。それが僕の願いなんですよ』


「重いな〜」


『いつも僕に魂要求するくせに』


「私は悪魔だからいいんだよ」


『じゃあ僕も、悪魔になります』


「やめとけやめとけ。お前にゃ無理だよ」


『じゃあお姉さん。悪魔になれるような人ってどんな気質の人ですかね?』


「うーん、極悪非道の無法者で」


『はいはい』


「血も涙もない悪の権化で」


『なるほど』


「親さえも葬ってしまうような……」


『え?』


「え?」


『親さえも?』


「親さえも」


『葬って?』


「葬って」


『しまうような?』


「しま…… あっ」


『……』


「……」


『……』


「……」


『……わ、私は一体誰なんだろうか』


「とっても親孝行者の僕の嫁じゃないですか」





『お姉さんの魂が欲しいです』


「またそれかよ〜」


『それじゃあ代わりに、願いを叶えてあげましょう』


「完全に逆転しちゃってんじゃん〜」


『お姉さんは悪魔ではないと前回証明されちゃいましたからね』


「わ、私は悪魔だ!」


『それじゃあご両親、葬ってきてくださいよ?お姉さんがこの前自分で言ったんですよね?』


「あっ、あれは比喩というか……」


『言い訳ですか?悪魔のくせに情けないですね。鬼畜さが足りませんよ』


「うぐっ……」


『さあ、さあ、さあ!』


「……えーい、黙れ!」


『ぐほっ』


「お前の方がよっぽど悪魔だよ」


『いたた…… 何も、殴らなくても』


「親を葬れ、なんてそそのかすようなクズは拳で分からせにゃならんのだ」


『なんかもう、悪魔というより熱血な体育教師ですね』


「そんな昔のドラマの主人公っぽく仕立てるなよ〜」


『じゃあどんなドラマの主人公っぽく仕立てればいいんですか』


「別にドラマの主人公っぽく仕上がりたいわけじゃねえよ」


『まあ、仕立てる仕立てないに関わらず、こうなりたいって理想だけでも教えてくださいよ』


「うーん、理想か」


『自分の思う通りのことを言ってください』


「……笑うなよ?」


『笑ったら魂でもなんでもあげますよ』


「……ク」


『ク?』


「クールビューティー、な感じとか」


『ハハッ!』


「てめえ!笑いやがったな!夢の国一番人気のマスコット風に笑いやがったな!」


『いや、そんな、滅相もない…… ハハッ!』


「もういい!約束通りお前の魂をもらう!そこに直れ!」


『イヤです。魂はあげません。傑作ですね。超ウケます』


「やっぱりお前悪魔かよ〜」





「お前の魂がいつまで経っても私の物にならないんだが」


『そんな、ライトノベルのタイトルみたいな文体で文句言われましても』


「そんなつもりはなかったけども」


『魂あげちゃうってつまり、死んじゃうってことでしょう?』


「まあそうなるな」


『死んじゃうのはイヤですね。お姉さんを愛でることが出来なくなる』


「そうなることを望むばかりだけどな私は」


『他の物じゃ駄目ですか?』


「他の物って…… もうハンバーガーじゃ釣られてやんねえぞ」


『あー、そうですか』


「残念だったな」


『でも、お姉さんに奪われている物、ありますよ』


「なんだよ?なにも貰ってねーぞ」


『心ならもう奪われてますし、骨抜きにもされてます。お姉さんに』


「あー、チクショー。心なんて、ましてや骨なんかいらねーよー。魂くれよー」


『まあそんなこと言わず、この骨、しゃぶってみてくださいよ。栄養満点ですよ』


「なんだよ、コレ…… まあ腹減ってるからしゃぶってやるけど」


『……どうですか?』


「んー、まあ、悪くはない」


『そこのペットショップに売ってました』


「ブッ」


『これでお姉さんは僕のペットですね』


「殺す!殺す殺す殺す!」


『穏やかじゃないなあ』


「それはオメーの頭の方だ!」


『餌付け失敗ですね』


「わっ、私はあくまでも、悪魔なんだぞっ!骨も心もいらねえ、魂が欲しいんだよ!」


『おおっ、これが噂に聞く悪魔ジョークですか?あくまでも悪魔、まさかご本人から聞けるとは』


「あぁ〜〜〜もぉ〜〜〜」





「願い叶えるから魂くれよ……」


『お疲れのようですね』


「このやり取り何回やるんだよ……」


『お姉さんが僕の願いを叶えてくれるまでですよ』


「え〜、それはヤダな」


『初めて会った時もそう言ってましたよね』


「お前が変な願いばっかするからさ〜、魂貰えずじまいだし、だからお前のところに毎日通わないといけないし〜」


『毎日通ってたんですね』


「往復の電車賃でもう定期代超えちまったし〜」


『定期買っといた方がよかったですね』


「こんなに通い詰めるとは思わなかったし〜」


『……あっ、それなら僕に名案がありますよ』


「名案?」


『この方法なら、利害は一致します』


「なんだよ、聞かせろよ」


『まあそう焦らずに。まず、お姉さんは毎日の電車賃が痛手だと』


「電車賃は馬鹿にならねえよ」


『そして僕は、お姉さんと一緒にいたい。これはもう、答えは一つしかありませんよね』


「なんだよ?もったいぶらず教えろよ」


『僕とお姉さんで同居すればいいんですよ』


「……え?」


『同居すればお姉さんは電車賃を払わなくていいわけですし、僕もお姉さんといられて幸せです。ウィンウィンの関係性です』


「……」


『どうですか?』


「……それは、うーん」


『それとも、いつかの欲望貯金でも使っちゃいましょうかね。借りは早いとこ返しておきたいでしょうし』


『うっ…… それを今言うかよ』


『改めて、どうですか?』


「……まあ、電車賃は馬鹿にならないからな」


『決まりですね』


「ちっ、しゃーねーな…… これも電車賃節約と、借りを返すためだ」


『安いアパート見つけておいたんですよ』


「行動が早えな…… だが私は、家賃なんぞ払わないぞ。悪魔だしな」


『構いませんよ。僕が負担しますから』


「だが覚えとけよ!いつかお前の魂は必ず私の物にしてやるからな!」


『ハハッ、楽しみにしておきますよ』


「相変わらず口の減らない奴だな、お前は」


『お腹は減ってきましたけどね』


「……それは、私もだ」


『お昼にしますか』


「しゃーねーな。ハンバーガー奢らせてやるよ」


『それじゃあ、テイクアウトしましょうか。実はもう、アパート借りてるんですよ』


「行動が早えどころじゃねえな」


『ハンバーガーショップの徒歩圏内のアパートなので、テイクアウトしてゆっくりと食べましょう』


「そうだな…… だが、覚えておけよ!その後にお前の魂をいただいてやるからな」


『ハイハイ、楽しみにしておきますよ』


「ああもう。お前って奴はまったく口の減らない悪魔みてーな人間だな」


『腹を減らす悪魔とは相性がいいことでしょうね』







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※この作品は以前『小説家になろう』上に投稿したものに、若干の修正を加えて再掲したものです。