暗くて愚かなニクいやつ。

俺はお前を殴らないからお前も俺を殴らないでおくれ

アラサー教師の唯一の教え子が転生したロマンチストだった時の話【小説再掲】(5000文字程度)

「それでは問題でーす。1+1は?」

『1人と1人が出会い、繋がり、恋をしてーー芽生えた愛の結晶をまた1とした時…… 答えは3になります』

「違いまーす」

『1+1が2だなんて画一的な発想に囚われてしまっては、先生は愛の結晶をないがしろにしてしまうことになる』

「算数の授業中はないがしろでオッケイでーす」

『そんなことだからいつまで経っても独り身……』

「それでは問題でーす。教室に先生1人と生徒1人がいまーす。生徒1人がどこかへと連れて行かれてしまいました。さて、今教室にいるのは何人でしょう?」

『6歳児なんですからもっと甘やかしてくださいよ』

「6歳児はもう立派な一人の人間でーす。甘やかしませーん」

『スパルタですね』

「『スパ』って魅惑的な響きよねえ。スパゲッティにスパワールド」

『出た、枚原(まいはら)先生の脈絡のない急な話題転換!脳にスパークでも食らってるんですか?』

「とりあえず、相も変わらず失礼なこうきくんを相手にスパーリングをぶちかまそうかしら」

『それはなんともスパイシーですね』

「でも飴とムチは大切だから、スーパーで飴玉でも買ってあげる」

『それはなんともスパシーバです』


 ◯


「モテたい」

『授業中に、ましてや6歳児にそんな愚痴吐かないでくださいよ』

「授業中に、ましてや6歳児にそんな愚痴吐きたくなるぐらいにモテたい」

『重症ですね』

「それにこうきくんは頭が良いから、その時間の授業の要点をパパッと理解しちゃうからなあ。授業の後半は毎回自習みたいになっちゃうし。雑談も許可します。てか雑談でもしてなきゃ暇」

『まあそうですね…… 小学校1年レベルならば45分も必要ありませんし』

「カンジわる〜」

『6歳児にそんなこと言えちゃう辺り枚原先生もなかなかカンジ悪いですけどね』

「6歳児って言っても、こうきくん転生してきたんでしょ?」

『ええ、まあ。前世で培った頭の使い方というか、意識の貯蓄がぼんやりと残ってますからね。まっさらな6歳児よりは賢いと自負してます』

「それなら愚痴ぐらい聞いてよ〜」

『まあ別に、いいですけどね……』

「うわあ、露骨にめんどくさそうな顔してやんの〜」

『6歳児にめんどくさそうな顔させないでくださいよ』

「6歳児にめんどくさそうな顔させたくなっちゃうぐらいモテたい」

『会話が堂々巡りしそうなので先に進めてください』

「カンジわる〜」

『……先生無視して寝てよっかな』

「まあまあ、飴玉あげるから聞いてよ」

『スパシーバです」

「本題ね。なんで私モテないと思う?どうしたらモテると思う?」

『知らんがなです』

「一刀両断!」

『一人で千人分の力を持つぐらい強いこと』

「一騎当千!」

『一日会わないと、何年も会っていないかのように気持ちが募ること』

「一日千秋!」

『全問正解です。飴玉あげます』

「私が試されるこの流れ、なんなの?」

『枚原先生がモテるためには何をすればいいのかという、数学界の超難問であるフェルマーの最終定理にすら匹敵する問題は、僕の手には余ります』

「そんなに手遅れなの?私」

『それなら手始めに、6歳児に愚痴を吐かないところから始めてみてはいかがでしょう』

「無理〜」

『無理ですか……』

「それは無理〜」

『お金持ちの象徴みたいなイメージのある長い車』

「それはリムジン〜」

『クロアチア南部、アドリア海に浮かぶ島』

「それはムリェト島〜」

『さすが先生、博識です。素晴らしい』

「ありがと〜」

『ご褒美に飴玉あげます』

「飴玉よりイケメンの連絡先が欲しいなあ」

『6歳児の僕はまだ親にスマートフォンを持たせてもらってませんので、教えることの出来る連絡先はないです。残念でしたね』

「そんな時だけ6歳児になりやがって……」

『6歳児に、マジで恨みがましい視線向けないでくださいよ』

「……」

『無口になるほどマジマジと、熱い視線を向けないでくださいよ』

「……前々から思ってたけどさ、こうきくんって、なかなか将来が楽しみな顔の造形してるよね」

『身の恐怖を感じました』

「最終手段、こうきくんに貰われちゃおっかな。早く18歳になって私を迎えに来ておくれよ」

『それは無理な相談ですよ…… 僕と枚原先生じゃ、軽く20歳は離れてますよ』

「愛があれば歳の差なんて〜」

『そもそもないんですよ、その愛が』

「まあまあ。さっきみたいな飴玉じゃなく、おっきな棒付きペロペロキャンディあげるから」

『それに関してはバリショーェスパシーバです』

「棒付きペロペロキャンディで釣られるなんて、そんなところは6歳児だね」

『棒付きペロペロキャンディはありがたく頂戴するとして…… 綺麗系か可愛い系で言えば、僕は可愛い系が好きなので』

「それってつまり、私じゃ綺麗過ぎるってこと?」

『どちらかと言えば、ですかね』

「どちらとも言わず、綺麗ってこと?」

『どちらかと言わせてください』

「どちらかと言うまでもなく、私は綺麗」

『自分で断言しちゃった!』

「どちらかと言えば〜、なんて煮え切らない濁し方してると女の子に嫌がられちゃうよ〜?優柔不断だー、って。あ、そうそう優柔不断で思い出したんだけど、昔付き合ってた男がさあ、また酷くてさあ」

『あっ、ほら!チャイム!枚原先生、チャイム鳴ってますよ!雑談してるうちにチャイム鳴りましたよ!小学生らしくドッジボールしに校庭に行かなきゃ』

「この学校、生徒こうきくんだけなんだけど」

『転生してるので一人でもドッジボールが出来るので!お気遣いはいらないので!』

「めちゃめちゃ言い訳に使うじゃん。転生」

『どちらかと言わずとも先生はお綺麗なので、この場を退散させて頂きたく思います』

「そんなマジで申し訳ない顔しないでよ…… 休み時間になってまで引き留めないから」

『やった!』

「続きは次の授業でね」

『永遠など無いと知りながらも、この休み時間の永遠を願ってしまいました』


 ◯


「あのさあ、今更なんだけど。転生って何よ」

『本当に今更ですね。僕がここに入学してから半年ぐらい経ってますよ』

「スルーしようと思っても、じわじわと興味が湧いてきてねえ」

『自分で言うのもなんですけど、まあまあレアケースですからね。さもありなんという感じです』

「今の私が気になる事柄ランキングベスト30の中にはギリ入るかな」

『わりと興味が薄い!』

「ちなみにこうきくんの転生よりも気になるのは、あの大物芸能人の不倫かな」

『ワイドショーに負けましたか……』

「ま、誰にだって知られたくないことの一つや二つあるしねえ。しつこく問い質したりはしないよ」

『時折見せる大人の対応』

「う〜ん、じゃあクイズぐらいに留めておこう。こうきくんのここに至るまでをズバリ言い当ててみせよう。人生何事もゲーム性が重要だよ」

『否定はしません』

「う〜ん、そうだなあ…… こうきくんが前の世界で鬱々とした日々を送っていたところ、トラックに轢かれて、でもそれは神様の手違いで、罪滅ぼしに転生させてもらった的な話?」

『どこのライトノベルですか…… 神様となんてお会いしたこともありません』

「それぐらい劇的でもいいじゃんさあ」

『そんな劇的じゃないですよ…… それにクイズ形式に応えておいてなんですが、正直言ってあまり鮮明には覚えていません』

「そうなの?」

『寝ている時に見た夢を説明してる時に、感覚としては近いですかね。記憶に残ってはいるけど、言葉にすると肝心な部分が所々抜けてしまうみたいな』

「なんか思ってたのと違うなあ。もっとこう、『前世の記憶で無双!』みたいなことかと思ってた」

『そうは都合よくいかないみたいですね』

「まあ要するに、色々あるのね」

『要されると、そんな感じです…… まあでも、それなりに楽しかった前世だった気がしますよ。気楽に生きてた気がします』

「プー太郎だったんだね」

『勝手な想像はやめてください』

「クマのプー太郎さんだったんだね」

『クマのプー太郎さんの規模では少なくとも愛されてなかったと思います』

「あら」

『まあだから、爆笑必須な面白話ではないですよ』

「ふーん」

『興を削いだ感じになってしまったお詫びではないですが、確実に覚えていることを一つ教えます』

「聞かせてみそ」

『「可愛くて若い女性教師とマンツーマンで個人授業受けたい!出来れば身体を密着させて!」って願望だけはめちゃくそにありました』

「こいつやべえ!」

『シンプルに罵らないでくださいよ』

「キモさを感じた」

『シンプルに引かないでくださいよ』

「ゴーヤを始め色々な食材と炒めたい」

『チャンプルーにしないでくださいよ』

「まあでも、よかったじゃん。夢が叶って」

『え?』

「いや、だからほら、可愛くて若い女性教師じゃん。私」

『ははは、嫌だなあ。急に宇宙言語を使わないでくださいよ。博識自慢ですか?こいつは一本取られた』

「こいつ……」

『欲を言えば、10代前半でボンキュッポンなスタイルの先生が理想的でしたね。顔はもちろん可愛い系で』

「欲を言うな!いねえよそんな都合の良い奴!」

『先生。煽っておいて何ですけど語気がヤバめです』

「おっと、危ない…… 清楚で可憐な私のイメージが崩れるところだった」

『粗相で枯れてるイメージですか?』

「せ・い・そ!か・れ・ん!」

『冗談ですよ』

「全く、最近の若いもんは」

『先生も十分お若いですよ』

「えっ、本当?」

『ちょろい』

「そろそろキレるよ」

『ごめんなさい』

「聞き分けはいいのね」

『何はともあれ、今の日常は悪くないですよ。枚原先生とお話ししてると、退屈しないです』

「急に嬉しいことを言うねキミは」

『滑稽です』

「急にクソむかつくことを言うねキミは」

『コケコッコーです』

「急に年相応な無邪気さ!動物の鳴き真似って!お遊戯会じゃないんだから!」

『随分楽しそうにツッコミされるんですね』

「こうきくんとお話ししてると退屈しないってのは私も感じてる」

『それは嬉しいです』

「こうきくんや家族以外とプライベートで話さないってこともあるけど」

『それは切ないです』

「どうせ人間関係薄っぺらですよぉあたしゃ」

『投げやりにならないでくださいよ…… でも、その気持ちは僕にも分かりますよ』

「6歳児に分かられちゃった」

『赤ん坊の時よりはマシですね。あの頃は、意識はあっても身体が思うように動きませんでしたから』

「ふーん。こうきくんもなかなか大変だったのね」

『あの頃には戻りたくないです』

「あの頃って言っても、こうきくんまだ6歳児だから…… 3年前、4年前、5年前……」

『どうしました?』

「いや、こうきくんの人生ってまだまだこれからだなあと思って…… 6歳って…… それに比べると私って……」

『ご自分をそんなに卑下なさらないでくださいよ。枚原先生だって、人生まだまだこれからです。良いこともありますよ』

「良いこと、ね……」

『そうですそうです』

「それなら私を、お嫁にもらってくれる?」

『ばぶうおぎゃあ』

「はいそこ!都合の悪い時だけ6歳児にならない!そもそも『ばぶうおぎゃあ』世代はもっと若年層!」

『今ばかりはばぶうおぎゃあ世代でありたかった』

「ああもう、軽くヘコんできた」

『まあまあ』

「あの頃に戻りたい」

『本気の目で言わないでください』

「ばぶうおぎゃあ」

『恥を知ってください』

「恥なんて、スパゲッティに混ぜて食ってやるわ」

『いっそ清々しい』

「あーもう。過去には戻れないし転生の話はあやふやだし、こんなこと考えてても仕方ないや」

『未来のことを考えて生きましょう』

「そうだそうだ。転生しちゃったもんは仕方ない。現状モテないのも仕方ない。先のことを考えて生きよう」

『たまには良いこと言うんですね』

「こうきくんにお嫁に貰われる、12年後の未来を考えて生きよう」

『ほとんど悪いこと言いますよね』

「うるせえ、喰らえスパーク」

『この人やべえ!』

「シンプルに罵るな」

『……まあ、枚原先生を一人野放しにするわけにはいきませんからね。素敵な方を紹介出来る人脈を持てるよう、努力します』

「頑張れこうきくん。負けるなこうきくん。全ては私の婚活のために」

『出来れば自分のために努力したいものです』

「じゃあまずは、算数を頑張らないとね。1+1は?」

『1人と1人が出会い、繋がり、恋をしてーー』

「違いまーす」

『子供の発想は尊重しましょうよ。そんなことだからいつまで経っても独り身……』

「それでは問題でーす。教室に先生1人と生徒1人がいまーす。生徒1人が消えました。さて、今教室にいるのは何人でしょう?」

『6歳児なんですからもっと甘やかしてくださいよ』

「6歳児はもう立派な一人の人間でーす。甘やかしませーん」

『スパルタですね』

「『スパ』って魅惑的な響きよねえ…… ス…… スパ……」

『「スパ」のボキャブラリー、切れてますよ』

「その事実に関しては、すっぱい顔をするしかない」






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※この作品は以前『小説家になろう』上に投稿したものに、若干の修正を加えて再掲したものです。