暗くて愚かなニクいやつ。

俺はお前を殴らないからお前も俺を殴らないでおくれ

どれぐらい好き?【小説再掲】(1600文字程度)

「……ねえ」

『うん?』

「私のこと、好き?」

『好きだよ』

「どれぐらい好き?」

『言わなきゃダメ?』

「言ってほしいな」

『うーん、じゃあ、恥ずかしいけど言うね』

「お願い」

『あえて冬場に触る、冷えたタオルケットと同じぐらい好きだよ』

「思ってたのと違った」



「私への愛はタオルケットと同等なのね」

『同等って言っても、アレだよ?あえて冬場に触る冷えたタオルケットの存在は、僕の中では群を抜いてるよ』

「プッシュが凄いわ」

『今は都合良く冬なので、暖房を切った寝室でタオルケットを冷やしておこう』

「都合良く冬でよかったわ」

『さあ、タオルケットが冷えたよ!召し上がれ!』

「召し上がりはしないけれど、触ってみるわ」

『どうかな?』

「……ねえ」

『うん?』

「私、あなたのことが、掛け値なくこの世で一番好きなのだけど」

『うん』

「冷えたタオルケットも、同率首位に入れておいていいかしら?」

『さすがは僕の彼女だ』



「冷えたタオルケットは別枠として、私のこと、どれぐらい好き?」

『うーん、そうだなあ』

「もう少しロマンチックな返答を期待したいものだわ」

『手動タイプの鉛筆削りの感触と同じぐらい好きだよ』

「ロマンチックが遠のいたわ」

『鉛筆削りって言っても、アレだよ?電動じゃないよ?コンセントに挿して鉛筆を入れるだけで削れる電動タイプなんて、うるさいだけじゃないか』

「鉛筆削り過激派がいたわ」

『手動と言っても、超小型の、筆箱に入るサイズのやつじゃないよ?アレだと削りカスを入れるゴミ箱なり袋なり用意しなきゃだし』

「随所でこだわりを見せるわね」

『ハンドルを回すタイプの物が至高』

「意識が高いことは良いことだと思うわ」

『都合良く僕のコレクションの中で一番好きな鉛筆削りと丸まった鉛筆があったから、試してみて』

「彼氏の収集癖がニッチで正直面食らっているけれど、試してみるわ」

『どうかな?』

「……ねえ」

『うん?』

「私、怖い」

『どうして?』

「価値観って、歳を重ねるごとに変えにくくなるものじゃない?何が好きとか、嫌いとか」

『そうかもしれないね』

「だから、怖いの。こうも短時間の間に、好きな物ランキングの上位がバンバン更新されていくのが。この手動ならではの感触。ごりごりと鳴る心地良い音。ダストケースを舞う削りカス。ずっとこうしていたいわ」

『さすがは僕の彼女だ』

「好きな物がまた増えてしまったことに動揺して、くらくらして、目が回っちゃいそう」

『目を回しながらも鉛筆削りのハンドルはしっかりと回すところが、最高に愛しいよ』



「私のこと、どれぐらい好き?」

『うーん、そうだなあ』

「3度目の正直に期待したいところ」

『低反発まくらと同じぐらい好きだよ』

「2度あることは、の方だったわね」

『あの優しく包み込まれる感触がたまらないよ』

「はいはい。試す試す。どうせ都合良く実物があるんでしょ」

『学習能力が高いところも好きだよ』

「はいはい。好き好き。案の定好き。実際に寝てみて如実に分かる。何で今まで使って来なかったのか疑問になるレベルで好き。今すぐ自分用のやつを買いに行きたいぐらい。このふっくら感、堪らないわ。彼氏に3回もボケられてそっぽを向いた私の乙女心も満足するぐらい、最高の寝心地だわ」

『流れに身を任せる決心をした君も好きだよ』

「はーあ。結局、当初思い描いていたロマンチックな感じの答えは聞けなかったけれど、たくさん好きな物が増えて楽しかったわ」

『いやいや、そう言ってもらえて何より』

「低反発まくらを使ってたら、なんか眠くなっちゃったわ。冷えたタオルケットもあることだし、お昼寝と洒落込もうかしら」

『……あ。じゃあ寝ちゃう前に、1個だけ訂正させて』

「訂正?」

『君のことは、冷えたタオルケットや手動タイプの鉛筆削り、あと低反発まくらと「同じぐらい」好きって言ったけれど、それは僕の照れ隠しで、本当はその三つの好きレベルを全部合わせたって全然敵いっこないぐらい、心の底から完膚なきまでに、胸が恋焦がれるぐらい君のことが好きだよ』

「最後の最後でそう来る辺り、本当ずるいと思うわ」






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※この作品は以前『小説家になろう』上に投稿したものに、若干の修正を加えて再掲したものです。